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Channel: 宮部 龍彦 - 示現舎
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B-CASカード書き換えで捕まった“平成の龍馬”氏第2回公判

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鳥取ループ(取材・文)

前回に続いてのレポートです。

今日は前回に続いて証人尋問が行われました。

前回はWOWOW、スターチャンネル、スカパーJSATの各衛星放送事業者に対する尋問が行われましたが、今回は最後の衛星放送事業者である(一般社団法人デジタル放送推進協会)DPAの社員が尋問に立ちました。

DPAは難視対策衛星放送を運用しており、無料放送であるという点が他の事業者と違います。

検察、弁護士の双方から、難視対策衛星放送とは何なのかについて質問がされました。そこでDPA社員から最も多く出たのが「緊急避難的」という言葉です。その意味は、放送法に基づいて定められた基幹放送基本計画、電波法に基づいて定められた基幹放送用周波数使用計画により地上波の放送範囲が限定されており、難視対策衛星放送はその原則を破って本来は首都圏に限定された放送を衛星を使って全国に再放送しているということです。言い換えれば法律上の根拠がないということだと思われます。

難視対策衛星放送を受信できる視聴者の条件は4つあり

  1. 視聴者の住所を確認する書類がない場合
  2. 利用規約を遵守すること
  3. 知的財産権を侵害するおそれがないこと
  4. 放送法等に反する利用をしないこと

これらの条件はDPAが定めたもので、B-CAS社との契約は有料衛星放送事業者と同じです。つまり、B-CASとの契約上はDPAは誰にでも視聴をさせる権限があります。

ただし視聴には申請が必要で、視聴者は最小限にするという方針があり、視聴世帯数を総務省に報告しているということです。視聴者を最小限にしている背景には基幹放送基本計画で地上波の受信地域が放送局ごとに限定されていることがあります。しかし、その理由についてまでは「答えられる立場にない」ということでした。

前回の有料放送事業者の社員がかなりぶっちゃけて答えているのに比べると、DPAは少し奥歯に物が挟まったようなところがあるのが印象的でした。

ではB-CAS書き換え騒動でDPAがどのような損害を受けたかというと、金銭的な損害はなく、ただ総務省に正確な視聴世帯数を報告できなくなるということでした。

次に、休憩を挟んで多田被告への被告人質問が始まりました。まずは弁護士から、現在の被告の状況、逮捕されるまでの経緯が質問されました。

多田被告は今年の4月末に京都大学を退職。その理由は事件後に教員や学生との接触を禁じられ、隔離部屋で1人作業をさせられることになり、居づらくなったためでした。現在は、東京に引っ越してそこで別の職場に就職しています。

事件前は2011年ごろからオピニオンサイト「アゴラ」や「平成の龍馬 blog」で言論活動を開始。そこで難視対策衛星は誰もが見られるべきだといった主張をしていました。きっかけは、2010年10月に池田信夫が地デジ不要論を唱え、それに多田被告も共感したことでした。要は衛星放送で全国にあまねく放送できるのだから、高コストの地デジは無駄だというものです。

2011年6月にアナログ放送が停波された時に、DPAが停波により一時的に視聴できなくなる世帯のために、暫定的に難視対策衛星の視聴申請を受け付けており、多田被告は実際に申請して2012年1月に視聴期限が切れるまで難視対策衛星を見ていました。

そこまで難視対策衛星にこだわるのは「東京への憧れ」のためだと強調していました。

そして、2012年5月にB-CAS書き換え騒動があり、多田被告もカードを書き換えて、ブログに書き換え方法等を掲載し、6月に事件が起こるということになります。

ここで弁護側と多田被告が強調したのは、あくまで難視対策衛星を見るのが目的であったが有料放送を除外して難視対策衛星だけ見られるようにする方法がなかったということです。ただし、有料放送には関心がないとしながら、なぜ有料放送を録画したのか問われると、そこはよく覚えていないと返答につまる場面がありました。

検事もその点について、有料放送が見られるようになると分かって書き換えたのではないかと追求しました。しかし、多田被告の答えは、あくまで有料放送には関心がないということでした。

また、難視対策衛星の視聴を申請したことがあるのなら、視聴が限定されるというB-CASの仕組みをよく理解していたのではないかと問われると、それは知っているが、法律上犯罪にはならないし、倫理的にも見ることに問題はないと考えていると多田被告は答えました。

そして、無罪になればまたカードの書き換えをするのかという問いには、多田被告はしないと答えました。その理由は「今は東京にいるので東京のチャンネルが見られるので」ということでした。

最後に、裁判官からいくつか質問がありました。

裁判官が「2038年化とは何ですか?」と聞くと、多田被告は「それはカードの書き換えで2038年まで見られる状態になるから」と答えました。

裁判官も、なぜ有料放送を録画したのかに関心を持っていましたが、多田被告の答えは弁護士や検事に対するものと同じようなものでした。ただ、カードを書き換えた後に気が変わって有料放送を見たくなったということではないということでした。

そして「有罪になれば司法の判断を受け入れますか」という裁判官の問いに、多田被告は「有罪になれば書き換えはしません」と答えました。

また、B-CAS社からは損害賠償の請求をされていないことが明らかにされました。

次回公判は10月30日13時20分から、京都地裁209号法廷で行われます。そして、12月3日11時30分に同法廷で判決が言い渡されることになります。

私の予想ですが、第1審は執行猶予付きの有罪判決の可能性が高いと考えられます。というのも、無罪が予想されるなら、裁判官が「もし有罪だったらどうするか?」というような質問はしないと思います。まず、有罪ありきでその上で情状酌量の余地があるかどうかを探っているように感じました。あの場で「有罪になってもやる」と答えたら即実刑になるということなのかも知れません。

では、仮に有罪であるとしたら、B-CASカードを書き換えてDPAの難視対策衛星を視聴したことについても罪とされるのか、あるいはWOWOW等の有料放送を視聴したことに関してのみ罪とされるのかが注目されるところでしょう。なぜなら、後者の判決が確定すれば、2015年までのわずかの間ですが、B-CASカードを書き換える等の方法で堂々と難視対策衛星が視聴される現象が発生する可能性があるためです。

ここは非常に微妙な問題です。私電磁記録不正作出は私文書偽造の延長線上にある犯罪で、私文書偽造は文書の内容の真実性よりも、文書の作成者に文書を作成する権限があるかどうかが重視されるからです。そういう意味では、いくら放送法上は難視対策衛星を誰でも見てよいとは言ってもB-CASカードを書き換えるのはアウトと言えますが、そもそもDPAの業務に法的根拠がないため、DPAには視聴を制限する私電磁記録を作成する権限がないという考え方もあるためです。

検察が有料放送を視聴したことについて追及していたのは、その予防線の意味もあるように感じられました。


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