2015年1月8日の夜、岐阜県瑞穂市で会社役員の山崎光実氏が、目出し帽をかぶり、包丁を持った男に襲撃され、重傷を負った。後にこの事件で4人が殺人未遂で逮捕され1人が不起訴となった。
今年の10月4日、このうち2人の裁判員裁判が岐阜地方裁判所で行われ、10月7日の論告求刑で、検察側は2人に懲役8年を求刑した。
今年の9月、筆者のもとに次のような情報が寄せられた。
「解放同盟岐阜県連の大垣支部長が殺人未遂で逮捕された事件で、近く裁判がある。この支部長は前の岐阜県連委員長の息子で、事件の背景にキナ臭い噂がある」
調べてみると、確かに岐阜県瑞穂市でそのような事件があった。しかし、東海地方のローカルニュースとしてはやや大きく報じられたものの、全国的にはあまり注目されなかった。
報道によれば、事件があった年の8月24日に、トラック運転手の澤崎雅敏(既に懲役5年が確定して服役中)、その妻の澤崎美智子(後に不起訴処分)、観光会社社長の下城信彦(今回の被告)が殺人未遂で逮捕された。さらに8月30日、土木関係会社社長の石井涼也(今回の被告)が共謀に加わっていたとして逮捕された。
この石井被告こそ、解放同盟岐阜県連大垣支部長で、石井輝男前解放同盟岐阜県連委員長(故人)の息子なのである。
示現舎では、この事件の真相を解明するべく、岐阜に向かった。
裁判で明らかになった事件のあらましはこうだ。
石井被告は、山崎氏から度々金を巻き上げられ、父の遺産や会社の運転資金などから何千万円もの金を渡していた。石井被告が下城被告にそのことを相談しているうちに、やがて山崎氏を殺害しようという話になった。下城被告は自分の会社に新しく入社した澤崎受刑者が金に困っていることを知り、山崎氏殺害の実行犯とすることを考えた。そして、下城被告の仲介で石井被告が澤崎受刑者に100万円を渡し、澤崎受刑者が山崎氏を襲撃した。
石井被告の妹や母親の証言によれば、石井被告は会社社長・解放同盟支部長という肩書とは裏腹に、気弱でおとなしい人物であるという。一方、山崎氏は「一見してヤクザのような見た目」という証言があり、確かに筆者が法廷で目にした山崎氏の服装はヤクザそのものであった。
石井被告によれば、山崎氏から度々罵倒され、金を脅し取られたという。無論、山崎氏はそのことを否定し、石井被告が勝手にくれたのだと言う。そして、石井被告について「卑屈で卑怯でうそつき」と評する。率直なところ、山崎氏の証言は話半分で聞いていたのだが「卑屈で卑怯でうそつき」という点については本当であるように感じられた。石井被告は典型的な「いじめられっ子」タイプなのである。
これだけでは、金を脅し取られ続けた気弱な会社社長が切羽詰まって相手を殺すように依頼したという、よくありそうな殺人依頼事件のように思える。
しかし、裁判が進むにつれて、不可解な事実が明らかになった。下城被告は石井被告から何の見返りも受け取っていなかったし、仕事上の利害も大きくなく、プライベートでもそれほど親しい間柄ではなかったのである。それならば、なぜ下城被告は殺人依頼の仲介をするという危険な行為をすすんで行ったのか? 当然、裁判官と裁判員の関心はそのことに集中した。
そして、裁判の過程で下城被告も解放同盟大垣支部員であることが明らかになった。
「同和企業であることを前面に出した営業」「先代会長への恩義」「同和の会長」「部落解放同盟の会社」「同和対策の貸付金」という言葉が法廷に飛び交った。
さらに、下城被告が「仕事上の理由で支部に入った」「必要なのは支部の会費と(解放)新聞代を払うこと」という趣旨の説明をしたため、裁判員からは「部落解放同盟というのは部落出身者でなくても入れるのですか?」という神の如き質問が下城被告に対して行われた。
下城被告の答えは「そう認識しています」である。
この事件については、さらに続報する予定である。