岐阜県大垣市では同和厚生資金という貸付金制度が存在していた。貸付は2011年まで行われ、現在は償還のみとなっている。
示現舎では、実際に資金を借りた人のもとに届けられた納付書の束を入手した。
大垣市同和更生資金貸付規則によれば、貸付対象は「本市の同和地区に居住する者のうち低所得のため生活困窮世帯で他から自立更生に必要な融資を受けることが困難な者。ただし、生活保護世帯は、除くものとする。」とされている。
しかし、実際は対象者の認定は大垣市南若森町にある部落解放同盟岐阜県連合会大垣支部に事実上丸投げされており、市の担当者によれば「同和地区に居住する者」だけでなく「生活困窮世帯」であるかどうかも市は直接確認していなかった。
大垣市の同和地区は日の出町、今町、本今町、南若森町、若森町、東町である。このうち全国部落調査に掲載があるのは東町だけで、他の地域は歴史的な部落ではなく、同和事業のために便宜的に同和地区指定されたに過ぎない。しかも、示現舎が入手した納付書に書かれた住所はそのいずれにも含まれなかった。
制度を利用した人物の証言によれば、1人100万円まで借りることができ、大垣市全体で年間2000万円程度の予算枠があった。
「借りるのは簡単で、南若森だっけ? あそこの適当なアパートの住所で石井のおやじさんに書類書いてもらえばいいだけだよ」
この「石井のおやじさん」とは、石井輝男前解放同盟岐阜県連執行委員長のことである。そして、無論借りた人物は「部落」とは全く関係ない。それどころか、大垣市の住民でさえない者が、一時的に大垣市内に住所を移して借りたこともあったという。さらに、石井輝男が他人の名義を使ってこの資金を借り、市から納付書が届いたら「無視していいよ」と言っていたという証言もある。
大垣市から貸付け金の償還状況についての資料を入手すると、それを裏付けるような実態が明らかとなった。貸付け金の利率は年2%で、約10年かけて返済するのだが、その場合年間の返済額は10万円以上になる。
しかし、市の資料を見ると、100人程度債務者がいるにも関わらず、年間の償還金額は2015年度で131万8130円という状態だ。つまり、8~9割は返済されてないのだ。
同和事業の負の側面を知る人にとって「貸付金というのは踏み倒されるのが当然」というイメージを持たれがちだが、実際はそこまで悪いものではない。例えば住宅関係の貸付金は確かに1970年代前半くらいまでは「踏み倒すのが当然」のような状況があったが、さすがに問題とされ、現在9割以上返済されているのが実情だ。
それに比べると、8割以上も返済されていないということは、借りた側は最初から返すつもりがなかった、貸した側も真剣に回収するつもりがなかったと思われても仕方のない状況である。
納付書に添付されていた文面は、「貸付け金の償還金納入について(お願い)」と、妙に低姿勢である。「お願い」であれば、返すも返さないも任意であると取られてしまっても仕方がないだろう。
なお、本年度に同和更生資金貸付金のうち22万9440円が不納欠損処分、つまり貸し倒れとなった。市議会議事録によれば、本人が自己破産し、連帯保証人が死亡していたためだ。地元市議によれば、同和更生資金貸付金という制度の存在自体知らず、今年9月の決算委員会で不納欠損の話が出て初めて知ったということだ。ただ、市議会会議録を調べると、同和更生資金の存在については一応毎年説明されていたので、単に気に留められることがなかったということだろう。
詳しくは、書籍「『同和の会長』殺人未遂事件」を御覧ください。