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Channel: 宮部 龍彦 - 示現舎
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真相レポート 関西連続部落差別投書事件

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極悪の差別文書!

2015年4月から5月にかけて、京都、大阪、兵庫にまたがる地域で、差別文書がばらまかれたことが、部落解放運動団体の機関紙で報じられた。

保守系同和団体である全日本同和会大阪府連合会の機関紙「あけぼのKANSAI」は6月1日号で「断じて許してはならない 悪質な差別文書まかれる」と題して文書の全文を掲載して報じている。それによれば、文書は大阪府内の公営住宅のポストに投函されていたという。また、7月1日号では文書が斎場さいじょうにも郵送され、兵庫県内でも確認され、大阪市や八尾やお市は差別文書の配布に対して全市的に取り組むと表明したとしている。

「あけぼのKANSAI」に掲載されたチラシの全文。

部落解放同盟中央本部の機関紙、「解放新聞」は6月25日に「「差別されて当然」と 近畿各地で大量差別文書事件」と題して報じている。文書は「あけぼのKANSAI」に掲載されているものと同じで、大阪府だけでなく京都、兵庫にもばらまかれ、解放同盟の支部、精肉や皮革関係の業者や組合にも郵送され、同じ文書が500枚以上確認されたという。

最も先鋭的な部落解放運動団体として定評のある部落解放同盟全国連合会(略称「全国連」)の機関紙「部落解放新聞」の6月10日号は「差別文書を絶対に許さない! 大阪、兵庫に極悪の差別文書 全国連荒本あらもと支部は闘うぞ!」と題して、東大阪市荒本地区での差別事件のあらましを詳細に報じている。文書は「あけぼのKANSAI」と解放新聞が報じたのと同じもので、4月15日に全国連の事務所がある荒本会館に郵送されたほか、5月1日から9日にかけて荒本地区内の市営住宅にポスティングされ、自動車のワイパーにはさまれたものもあったという。荒本会館に郵送された文書の差出人は「民族名」を名乗っており、住所は東大阪市内に実在するものだったという。

さて、全日本同和会や解放同盟については何となく分かるにしても、全国連という団体について聞き慣れない読者も多いだろう。「部落解放同盟」を名乗ってはいるが、主流派の部落解放同盟中央本部とは関係を絶っている。

全国連は全日本同和会や解放同盟に比べると規模の小さな団体で、さらに過激派である中核派との関わりが深かったことから行政が正式に対応することは少なく、他団体に比べるとその活動が話題になることも少ない。しかし、実は今回の「差別事件」では、鍵を握るのはこの全国連なのだ。しかし、それはまた後で説明することにしよう。

急に話題が途絶える

それにしても、文書の内容、手口、その膨大な枚数と範囲の広さから見ても、今までにない大掛かりな「差別事件」である。ひょっとすると組織的に行われているのかも知れない。いずれにしても、過去の例から見て、解放同盟は警察と連携して犯人を追い込むだろう。そして、何よりも今でも深刻な部落差別が存在する根拠として、大いに宣伝することだろう。

と思いきや、解放新聞は6月25日を最後に、この話題を報じることはなかった。また、部落解放新聞も6月10日を最後にこの件を報じていない。あけぼのKANSAIも、少なくとも9月1日号では、もはやこの話題は見られない。

そんな折、筆者のもとに、「噂によれば解放新聞がこの件を報じなくなったのは、既に犯人が分かっていて、しかもその犯人が誰かということが、解放新聞がこの話題を取り上げにくい理由だ」との情報が舞い込んできた。

真相を確認すべく、事件の舞台となった大阪府、大阪市、八尾市に聞いてみたが、いずれの担当者はそのような事実は把握していないという。

一方、解放新聞を発行する解放新聞社に聞いてみたところ、「それは(解放同盟)支部が対応していることなので、まだ分からない」と、暗に噂が事実であることをほのめかした。

そして、府内のとある運動団体関係者から、さらに詳しい情報を得ることができた。

「怪文書をばらまいたのは、東大阪市在住の精神に障害のある人です。だから、解放新聞は報道するのを中止したのです」

しかし、筆者にとっては不可解に感じた。それだけの理由で解放新聞が報道を中止するのは不自然だからである。

解放新聞社は実はあれで「新聞」としてのプライドがあるのか、解放同盟本体とは微妙な距離感がある。重要な事柄は各支部に周知しないといけないこともあって、身内の不祥事であっても事実は事実として一応掲載してきた。その上で、たとえ犯人が精神障害者であっても「差別者」として容赦なく糾弾するか、あるいは犯人は世の中に蔓延する差別意識の犠牲者だとでも言えそうなものだ。

そもそも、犯人を特定したのは誰なのか。このことについて、筆者は犯人が「東大阪市在住」ということに引っかかるものがあった。

一口に部落問題・同和行政・部落解放運動と言っても、地域によって事情は大きく異なる。同じ大阪府内でも、東大阪市には特別な状況がある。それが、前出の全国連の存在である。

言うまでもなく最大の部落解放運動団体は解放同盟だが、東大阪市に限っては荒本地区が全国連発足の地ということもあって、東大阪市では全国連が他団体に比べて圧倒的な存在感がある。東大阪市は全国連の庭の言ってもいい場所だ。

そこで、早速筆者は全国連に電話で聞いてみたのだが、犯人については知らないと否定されてしまった。

しかし、本当に犯人が東大阪市在住なら、全国連が知らないはずはない。再度、前出の関係者に確認すると、実は最初に犯人を見つけたのは全国連であることを語った。

全国連が犯人の自転車を見つけて写真を撮り、その自転車の防犯登録番号から犯人が特定されたという。

それにしても全国連とはマニアックな団体の名前が出たものだ。全国連は「解放同盟荒本派」、あるいは「解放同盟反中央本部派」とも言われるように、もとは部落解放同盟から分かれて出来た団体だ。

正式に全国連が発足したのは1992年だが、解放同盟荒本支部は1981年頃から解放同盟本体とは対立状態にあり、荒本支部を狙った銃撃事件が起こるなど激しい抗争を繰り広げた。その主な原因はイデオロギーの対立によるもので、全国連はあらゆる部落解放運動団体の中でも最も反権力志向が強く、時に政府との妥協を行う解放同盟本体とは相容れなかった。

なお、2013年に全国連はさらに分裂し、八尾市の西郡にしごおり支部を主とする全国水平同盟が設立されている。背景には、運動の路線対立により全国連が中核派との関係を絶った一方で、現在の全国水平同盟は中核派との関係を保ち続けていることがある。

解放新聞が取り上げない理由の1つに、犯人の発見者が他団体であるため、詳しい情報が入ってこないということがあるだろう。そして、何よりもその団体が全国連ということが、解放同盟にとってはタブーであるように感じられた。解放同盟のみならず、行政も触れたがらないわけである。

前出関係者によれば、少なくとも大阪府と大阪市は事態を把握しているはずだという。しかし、「全国連にこれ以上関わるのはまずい」と筆者に忠告した。全国連と言えば過激派、過激派と言えばリンチ、それゆえ下手に関わると命にかかわるといった恐れがあるのだろう。

しかし、虎穴に入らずんば虎児を得ずと言うように、そのような風評を気にしていては、真実を得ることはできない。

いざ現地へ

2015年7月下旬、筆者は東大阪市の荒本を訪れた。

荒本は阪神高速13号東大阪線と近畿自動車道が交差するジャンクションの近くにある。近畿自動車道は名神高速道路や第二京阪道路とつながっているので、東側から高速道路を使って大阪市の中心部に入る場合は、ここを通ることが多い。そういった意味で、荒本は自動車交通の要所と言える。

地区に入ると目にはいったのは、整備された道路とやや古びた公営住宅群である。大阪の同和地区では典型的な風景だ。

ただ、地区の北側には住宅が密集する、昔ながらの部落の面影を残す地域がある。ここは道が狭いので、車で入り込んでしまうとやっかいだ。現に筆者は入り込んでしまって焦った。

地区の中心にあるのが荒本公園で、この周囲に人権センター、子育て支援センター、老人センター、公衆浴場など同和対策で作られた施設が集中している。

さて、とりあえず筆者は車を人権センターに停めた。用事のない車は駐車禁止であるが、人権問題について調査するために、この地に用事があって来たのだから何も問題はないだろう。荒本公園の周囲を歩いていると、地元の老人とすれ違ったので、「全国連はどこですか?」と聞いてみた。

「そこの角を曲がって…右側に見える古~いビル」

老人は、特に「古~い」の部分を強調してそう答えた。

公園の隣にある公衆浴場「寿ことぶき温泉」の前で辺りを見回すと、確かに鉄筋コンクリートの2階建てのビルが見える。壁は黒ずみ、あちこちにヒビが入り、ベランダの手すりは茶色くさびている。なるほど、古いだけでなく、あまりメンテナンスもされていなさそうな建物である。

早速中に入ると、入り口の近くに2つの部屋があり、そのうち1つには「部落解放同盟荒本支部事務所」という看板が掲げられていた。「あれ? ここは部落解放同盟の支部なのかな?」と一瞬思ったが、間違いなく全国連の事務所である。なかなか説明しがたいが、そのたたずまいと匂いが、部落解放同盟のそれとは違うのである。

取材を申し込んだところ、あいにく今日は狭山事件の対応のために主要なメンバーは東京に行ってしまっているということなのだ。

それでも、部落差別投書事件の真相について、ネットでの噂は本当かどうか、筆者が把握している事柄を示して聞いてみると、「あなたが知っている通りでしょう」という。

「しかし、たぶんこの人でしょうという段階で、特定はまだされてないです」

事のあらましはこうだ。

ビラを撒いていた人物が載っていた自転車を全国連が特定したのは事実。しかし、持ち主が防犯登録から分かった訳ではなくて、「自転車の持ち主が自分の持ち物だと主張するもの」が自転車に貼ってあったからだという。そして、その情報を全国連が荒本を管轄する布施ふせ警察署に提供して、今警察が捜査している最中だというのである。

それにしても、奇妙な話である。反権力の先鋭である全国連が警察と連携することになろうとは。確かに、本当に精神障害者なら糾弾も成立しないし、仮に「治療」となれば行政に任せるしかない。

「実際、その人が犯人だったら、糾弾というよりは、別の意味でのケアが必要になりますよね」

筆者がそう聞くと、「まあ、そうだね」とうなずかれるのみだった。

さて、せっかくここまで来たので、例の寿温泉に入ってみた。

入り口から入った途端、番台のおばさんが顔をみるなり「土足禁止だから、靴脱いで下駄箱に入れてね」と言われたので、よそから客が来ることには慣れているようだ。

料金は250円と格安、それでいてサウナや電気風呂もあり、設備は充実している。全国各地の公衆浴場を巡るマニアが存在するが、その中でも同和地区の公衆浴場の評価が高いのもうなずける。

荒本住民の憩いの場、寿温泉。もちろん、地区外からの客もウェルカムだ。

全国連とは?

それにしてもあの黒い建物、何かしらいわれがありそうだと思い、東大阪市役所に聞いてみたところ、やはり複雑な事情があった。

市によれば、あの建物はもともと「東大阪市立荒本会館」という名前だったが、30年以上前に公用廃止された。しかし公用廃止された後も使われ続け、前述のとおり現在も荒本会館と呼ばれている。

解放同盟荒本支部にからむ解放同盟の内紛の当時、市は新たに荒本解放会館(現在の荒本人権文化センター)を建設し、そこに解放同盟中央本部派を入居させ、現在の全国連は荒本会館に残った。市は全国連に対して建物の明け渡しを求めて裁判を起こし、最終的に全国連が退去するということで和解した。これが20年前のことである。

しかし、現在に至るまで全国連が退去することはないままでいる。市によれば、これは市側の事情もあって、様々な部局との調整が終わっていないために、和解で合意した内容が履行できないというのである。

もちろん、全国連は市に対して家賃を支払っていないし、水道光熱費も市が負担している。確かにこういった状況は同和対策事業最盛期には珍しくなかったが、今に至るまで続いているのはなぜなのか。

この地に詳しい事情通によると、さらに詳しい経緯はこういうことだ。

東大阪市が荒本会館の明け渡しを求めて現在の全国連を提訴したのは、1983年のこと。そして、1989年に大阪地裁で東大阪市敗訴の判決が下される。

市は控訴し、大阪高裁で市と全国連との間で和解が成立したのが、1994年。一応、全国連は荒本会館から退去するということになったのだが、それには様々な条件が付いていた。

主要な条件の1つは全国連の新しい移転先を市の負担で用意すること。そして、全国連が荒本会館から対処した場合、1000万円の和解金を市が全国連に支払うということだ。

全国連にとっては「完全勝利」と言ってもいい、あまりにも破格すぎる条件と言えよう。近年は、行政から訴えられた解放同盟が裁判に負け、公共施設から次々と追い出されている状況であり、今の感覚では裁判所の下でこのような和解が成立することは考えられないが、当時はそのような時代だった。

全国連の移転は翌年の1995年までに行われる予定だったが、移転先の市有地を産廃業者が占拠しており、業者が明け渡しに応じなかったため計画は頓挫とんざ。そのままズルズルと先延ばしにされているうち、国の同和対策事業が終わってしまい、今に至っている。

この問題が深刻なのは、一度裁判で結論が出てしまっていることだ。しかも、その結論通りのことが、未だに履行されない状態のまま。当時の和解条件は今では考えられない内容で、額面通りに実行することは非常に難しいし、それでも和解条件は和解条件である。まさに最悪のこじれ具合である。

さて、肝心の差別投書事件については東大阪市はどこまで把握しているのか。これについては、「事件が警察の捜査に委ねられているので市はコメントできない」ということだった。

同和を笑えるか?

その後、一般紙もこの事件を報じている。神戸新聞(2015年10月6日)に「部落解放同盟県連や皮革業者に差別文書 兵庫県警に告訴へ」という記事が掲載された。しかし、この記事は不可解である。既に犯人の見当がついており、しかも精神障害者…今さら告訴することに意味はあるのだろうか?

記事の中で告訴を行うとしている、部落解放同盟兵庫県連合会に聞いてみた。

「確かに犯人は分かっており、大阪府警が既に書類送検していて、犯人への取り調べもされたと聞いています。しかし、逮捕はされていません。文書は兵庫県の皮革業者にも郵送されたので、あくまで大阪とは別事件として兵庫県警に告訴して事件に関わることで、真相を知りたいと考えたのです。今になったのは、被害を受けた皮革業者の方々にも様々な考えがあって、合意を得るのに時間がかかったためです」

解放同盟兵庫県連は大阪での事を知らなかった訳ではなく、承知のうえで告訴を行うことにしたのだ。それにしても、精神障害と言われていることが本当であれば、起訴されないこともあり得るのではないだろうが。

「精神障害ということについては詳しくは知らないですし、そのようなプライベートなことは記者会見では言いませんでした。我々が知っているのは、犯人が自転車に乗っている後ろ姿の写メが撮られていたこと、集合住宅で自転車を管理するための番号を書いたラベルが自転車に貼ってあったので、そこから特定されたということです」

やはり、筆者が事前に得ていた情報とほぼ一致する。しかも、前述の通り書類送検されたということは、警察は犯人であると断定したということだろう。

念のため、布施警察署に聞いてみた。

「申し訳ないですが、その件については、事案の性質上広報していません。警察からは適正に捜査しているということしか言えません」

また、どのような容疑で書類送検したのかについても、言えないという。

過去の例から見ると、「差別事件」が摘発された場合は、解放同盟はそのことを積極的に喧伝したし、警察も発表してきた。しかし、今回に限ってこのような対応となっているということは、やはり犯人は精神障害者という情報を裏付けていると言えるだろう。

この一件で思い浮かぶのは2014年の「アンネの日記破損事件」である。各地の図書館に所蔵されていたアンネの日記がつぎつぎと破られたこの事件では、ネオナチの犯行ではないか、ユダヤ人差別ではないかといった報道が飛び交い、安倍晋三首相がアンネ・フランクの家を訪問するということまであった。しかし、蓋を明けてみれば、犯人は精神障害者。結局罪には問えず、不起訴処分となった。

実は、この事件は精神障害者が起こしたのではないかということは、かなり初期から言われていた。各地の図書館の司書の間でも、以前からそのような事が噂になっていたという。

特に一部の統合失調症患者が執着するキーワードに「創価 ユダヤ 部落」がある。ツイッターやフェイスブック等のSNSでこれらのキーワードで検索すると「創価学会は集団ストーカーをやめろ」「東日本大震災はユダヤが開発した電磁波兵器で起こした」「集スト部落の思考盗聴」などと書き込んでいる人が無数に見られる。これらは、ほとんど統合失調症患者によるものである。世の中がタブーとしているこの3つの事柄は、自分の頭のなかに他人の思考が注入される、逆に自分の思考が他人に読まれているといった妄想を説明するための格好の材料なのだろう。そしてまた、精神障害もタブーであると言える。

なお、同年には埼玉県で全盲の女性が足を蹴られて怪我をした事件があり、許しがたい行為だとマスコミが報じたが、犯人は知的障害者だった。

そこにはメディアや世論が持つ2つの問題があるだろう。1つは、真相が明らかになる前から、ありきたりの筋書きを予想して論評してし、推測に推測を重ねて的はずれな議論を繰り広げること。2つ目は、いわゆる社会的にタブーとされる事柄が関わると、その時点でまともに議論できなくなってしまうことだ。

メディアは、精神障害者や知的障害者に配慮して「気違い」や「知恵遅れ」といった言葉を放送禁止扱いにしている。それだけでなく、精神障害者や知的障害者が関わった事件については、実名報道を控えるし、内容についてもタブー扱いだ。しかし、その結果タブーの存在自体が(精神障害・知的障害以外の事柄も含めて)精神障害の妄想の材料になっていることに目を向けるべきだ。

我々は決して同和を笑えないのである。


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