※画像はシステムブレーンより。
川口泰司氏と言っても、多くの人はご存じないだろうが、同企連(人企連)加入企業等で人権研修を受けた人にとっては聞いたことのある名前かも知れない。
講演や人権研修等での川口氏の肩書は「山口県人権啓発センター事務局長」である。何も知らないと、まるで山口県の外郭団体の職員のように誤解してしまうかもしれないが、山口県人権啓発センターは山口県の行政機関とは何の関係もない。それどころか、登記さえされていない「任意団体」である。住所は「部落解放同盟山口県連合会」と同じであり、過去に山口県連が移転した際には一緒に移転している。
つまり、「山口県人権啓発センター事務局長」という肩書は文字通り「自称」である。誰でも「○○県人権啓発センター事務局長」を名乗ることは簡単だ。地図会社やネット上の情報サイトなどはタウンページの情報を利用していることが多いので、NTTに年間500円を払ってタウンページに掲載しておけば、地図や情報サイト等にも掲載される。
また、川口氏のプロフィールによれば「愛媛県宇和島市の被差別部落に生まれる」となっており、部落解放運動に関わったのは大阪など県外に出てからである。「属地属人」という考えからからすれば、地元を出た後も「被差別部落出身」を自称続けて、他県の同和団体に納まっているのは不自然な話だが、これは同和団体にはありがちなことである。
当然、川口氏は「山口県」から給与を受けているわけでもないので、実際の財政状況は厳しい。川口氏を知る人物によれば「講演だけでは食べていけないので、妻に働いてもらってなんとか生活している」という。
少し、この「業界」の事情に触れておくと、最近は自治体が人権研修を行う場合は、講師派遣会社である「システムブレーン」に依頼することが多い。講演量は自治体からシステムブレーンに支払われ、そこから手数料が引かれて講師に渡る仕組みである。システムブレーンのウェブサイトで検索すると、人権研修向けの講師の情報が多数登録されており、人権研修が同社にとって重要なマーケットであることが伺える。
画像はフルーク映像株式会社HPより。企業や自治体向けなのか、ビデオ作品の価格は5万円と高額である。
さて、以前レポートした部落解放研究第24回滋賀県集会では、そんな川口氏が演台に立つという情報を耳にしたので、川口氏が公演するという分科会に参加した。少し前まではこの類の講演会には必ずあった質疑応答、質問の時間が最近はなくなってきているので、筆者は聞くだけで終わりのつもりだった。しかし、後述する通り、意外な結末を迎えた。
分科会の会場の入口で名前を書くと、資料を渡された。
会場では録音・撮影は禁止とされた。これも少し前まではなかったことだ。要は「失言」のようなものが漏れるのが嫌ということだろう。
分科会のメインテーマは、やはり「全国部落調査」である。川口氏の主張は、ネットで「部落問題」「同和地区」で検索すると「同和地区Wiki」がトップに出てくるので、対策をしようということだ。会場の画面には同和地区Wikiが大写しにされた。
しかし、その途中、突然川口氏は講演を中断し、筆者に声をかけた。
「あなた達には話を聞いてほしくないので、退席してもらっていいですか?」
その理由について、川口氏は「裁判で係争中である」というのだ。
説明すると、川口氏は全国部落調査事件で東京地裁で示現舎を訴えている原告の1人である。ただ、川口氏はその中でも特殊な立場で、「部落解放同盟関係人物一覧」に名前が掲載されているわけではないし、裁判で川口氏の「現住所」とされている解放同盟山口県連の事務所の場所は全国部落調査に掲載されてすらいない。
また、筆者は川口氏と直接面識があるわけではないし、会場に来てからは講演を聞いているだけで一言も発していないのにこれである。
「裁判はあなたの個人の事情で、この講演は裁判の場ではないし、公私混同ではないですか?」
筆者がそのように抗議すると、さらに川口氏は別の理由を持ち出した。
「あなたの存在自体でしんどい思いをする当事者の人もいるんですよ」「私はあなたを見てると気分が悪くなる」
これが川口氏の本音だろう。
主催者からも退去を求められて、会場からも「出て行け!」と叫ぶものがあり、異様な雰囲気となった。筆者は退去させられる代わりに、会場に入る際に支払った3000円を返却され、配布された資料も没収された。ただし、幸いにも後で資料のコピーを入手することができた。
奇しくも、昨今はアメリカのトランプ大統領が実質的に一部のイスラム教徒の入国を禁ずる大統領を発し、「不寛容」「排外主義」というものが問題になっているところ。解放同盟のような人権団体はそのようなことに反対しなければいけないはずだが、実際は組織内から共産党などの対立勢力を追い出し、少しでも意見の異なる人々は排除してきたのは知られる所である。
宗教の違いも考え方の違いだとすれば、考え方が違うから排除するということは、まさに、「不寛容」「排外主義」そのものではないだろうか。
「当事者」あるいは「被差別当事者」という言葉は、特に「部落出身」を自称する人々からよく聞かれることである。何をもって当事者ということになるのか不明であるが「俺はお前とは違って特別なんだ」という選民意識が見え隠れする。もちろん、他県に移り住んでまで「部落出身」と言えるのであれば、一度部落に住民票を置いておけば、北海道でも沖縄でも外国でも「部落出身」を自称して同情を求めることが出来てしまうのだが。
「ヘイトスピーチ」という言葉が流行って久しいが、反対意見を述べるのもヘイト、行政に申し立てをするのもヘイトと、どんどん範囲が拡大している。そして、「存在自体」がヘイトであり、「私はあなたを見てると気分が悪くなる」とまで言えるのであれば、行き着くところまで行き着いて、ついに180度回ってしまった感がある。
結局、川口氏は「被差別部落出身者」という自称と「山口県人権啓発センター事務局長」というもっともらしい肩書がなければ、空っぽの人物ということだろう。