解放同盟の申し立てで全国部落調査発禁の仮処分が出された件、示現舎側が保全異議を申し立てたところ、去る16日付で決定が出されました。結論から言えば、横浜地裁は出版禁止命令を維持しました。ここまでは予想されたことですが、注目すべきはその理由です。
正確には「部落解放同盟員」の申し立てによる出版禁止命令を維持し、「部落解放同盟」の申し立ては却下しました。そのポイントは、組坂繁之委員長らが「同和地区出身者」であるということです。
以下が、その決定の全文です。それぞれ出版禁止と、ウェブサイトの削除命令ですが、重要なのは前者の方なので、1つ目だけを見ればよいでしょう。
28モ4041-決定-H29-3-16.pdf
28モ4061-決定-H29-3-16.pdf
この問題には2つの論点があり、1つは全国部落調査の発売は部落解放同盟への「業務妨害」であること、もう1つは被差別部落出身者に対する「人格権侵害」であるということです。このうち、裁判所は業務妨害を認めずに解放同盟の申し立てを却下し、人格権侵害を認めて組坂繁之委員長ら5人の申し立てを認容したということです。
なぜ人格権侵害かというロジックの前提として、2ページ目で「個人債権者らは、いずれも同和地区出身者であり」という事実を裁判所が認めています。この「同和地区出身者」という用語は当事者はどちらも使っておらず、解放同盟側が「被差別部落出身者」と言っていたのが、裁判所によってなぜか別の用語に置き換えられています。つまり、被差別部落出身者と同和地区出身者というのは同義ということなのでしょう。
9ページ以降から裁判所の判断の理由が書かれていますが、裁判所の決定というよりは、解放同盟の「糾弾要綱」のような感じです。
裁判所が同和地区出身者といった身分を認めることの是非については「個人債権者らが同和地区出身者であるとの主張は、同和地区といわれる一定の地区の出身者であることを意味するものにすぎず、法律上その他の何らかの身分が存在することを意味するものではない」としており、裁判所は同和地区出身者という基準は一種の属地主義のような判断をしているようです。無論、戸籍や住民票に「出身地」に相当することは書かれていないですが、裁判所の判断を文字通りに受け止めるならば、一度同和地区に住民票を移せば、他に移った後も「同和地区出身者」として通用することになるのでしょう。
また、何をもって「同和地区」なのか釈然としませんが、全国部落調査を同和地区の目録と認定しているので、要は全国部落調査に書かれた地域が同和地区ということなのでしょう。例えば、原告の宮瀧順子は同和地区指定をしなかった東京都の出身ですが、それでも同和地区出身者になるということは、いわゆる未指定地区の出身でもよいということになります。無論、賎民とは無関係な単なるスラムであった場所や、ごく一部の住民が差別されていた地域でも、全国部落調査にあれば同和地区ということになるようです。ただ、審尋の過程で組坂繁之委員長らの具体的な出身地がどこかという書証は提出されていないので、あくまで「自称」でよいということになります。
全国部落調査が公開されたあと、同和問題に係る人権侵犯は増えるどころか減っているという法務省のデータは無視されました。現在のデータよりも、昔から踏襲されてきた通説が重要ということなのでしょう。
法律上は、2週間以内に東京高裁に保全抗告ができるということになります。次の舞台は東京高裁です。