新聞が「同和」を報じる場合、いろいろと面倒な制約があるためか、何だかよく分からない記事になりがちだ。昨年、12月24日に朝日新聞(ネット版)が報じた「隠れた部落差別、今も ふるさとの料理出したら離れた客」という記事もその一つ。
記事内でタイトルに関係する部分が、この一文だ。
名古屋市で居酒屋を経営する山本義治さん(38)は今年6月、生まれ育った地域で親しんできた料理をメニューとして紹介した。とたんに離れた客がいた。ふるさとは被差別部落とされた地域だ。
ご承知のとおり、報道の基本は5W1Hである。しかし、同和がからむとまず「Where(どこ)」ということが抜けてしまう。そういう制約の下で記事を書く上、何を恐れているのかいろいろとぼやかすので、ますます訳がかからなくなってしまうのだ。
後で述べるが、「居酒屋」というのは名古屋市の吹上公園の近くにある「とんやき でらホル」のことである。「被差別部落とされた地域」というのは、滋賀県近江八幡市末広のことである。
筆者は、橋下徹の部落出身ネタの件で負い目がある朝日が、同和ヨイショ記事を書いてバランスを取ったつもりになっているのかと、この記事のことはあまり気にしていなかったのだが、示現舎の読者の方から、その店は「とんやき でらホル」であると教えていただいた。
そんな折、ちょうど名古屋で用事が出来た。これは行かないわけにはいくまい。
店に入ると、朝日の記事にあった「山本さん」が厨房にいた。もちろん、筆者が真っ先に注文するのはこれしかない。
「朝日の記事を見て来ました。ぜひ、出された客が離れたという部落料理を食べたいのですが」
しかし、山本さんによれば、部落料理といのは何か特定の料理というわけではなくて、この店自体が「そういうルーツの店」なのだそうだ。例えばモツの入ったどて煮、ホルモンの串焼きなどがそれに当たる。もちろん、部落料理として最近認知度が上がっている「油かす」もある。
とりあえずどて煮、シロ(腸)、ふわ(肺)の串焼きなどを適当に注文した。
山本さんは以前は部落解放同盟員であったが、今は運動からは離れたという。しかし、部落に関しては熱く語る人である。
「部落と言っても、全部が皮革や食肉に関わっていたわけではないのでは?」と突っ込むと、「いえ、全国ですよ。あちこちに広がっていったんです」
その言葉から、筆者はピンと来るものがあった。食肉で全国に広がったといえば、もうあそこしかないだろう。前述の末広部落である。
思った通り、山本さんのルーツは滋賀の近江八幡ということだった。
朝日の記事に欠けているポイントは、「とんやき でらホル」は名古屋にあるが、部落料理が名古屋と直接関係あるわけではないこと。そして、朝日の記事中に出てくる部落解放同盟や全国地域人権運動総連合は、少なくとも現在山本さんとは直接関係はないということだ。
最大の疑問である「ふるさとの料理出したら離れた客」という話だが、山本さんによればあれは新聞記者に勝手に誇張されたことのようだ。1人か2人離れた客がいたという話をちらっとしたら、なぜかそれがクローズアップされてしまったとのこと。
中日新聞には昨年6月に「かすうどん 誇りの味」という同様のテーマの記事が掲載されたが、そちらの方が山本さんの言いたい事が伝わっているという。中日新聞の記事に山本さんのコメントとして書かれている「差別問題を理屈で訴えるのものいいけど、食を通じて伝える方が偏見の解消につながる」という言葉の通りである。
なんで部落は怖がられるのかねえ? という話をすると、「やっぱり過去の運動のやり方が原因じゃないですか」と、山本さんは語る。
さて、問題の「部落料理」であるが、関西風に近い甘めの味付けで食べやすい。「ふわ」はもちもちとしていて、意外に癖のない味だ。
チェーン店の焼肉屋等ではまず出てこない部位が食べられるので、名古屋に立ち寄る際はぜひ行ってみるとよいだろう。
ちなみに、ネットに出回っている以下の写真は草津市木川町の「じんじん」という店(既に閉店)のもので、「でらホル」のメニューには、どれが部落料理とは書いてないので要注意。