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Channel: 宮部 龍彦 - 示現舎
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北海道アイヌ探訪記(2)新ひだか町シャクシャイン記念館

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新ひだか町

1965年に当時の北海道日高支庁が日高のアイヌについて詳細な調査を行い、「日高地方におけるアイヌ系住民の生活実態とその問題点」(1965年8月1日 発行者北海道日高支庁)が刊行されている。この資料から、当時の日高地域におけるアイヌの人口分布を知ることが出来る。日高は北海道の中でもアイヌが多い地域で、北海道のアイヌのうち6割がこの地域に住んでいたという。

1965年資料ではアイヌについて「民族」という表現はされておらず、一貫して「アイヌ系住民」と記述されている。一方、血縁関係を指して「人種」という表現を使い、「古くから「和人」との婚姻などによる混血によって同化が進んでいるので、人種としての「アイヌ」はすでに存在しないことがほぼ予想されているところ」との記述がある。

そのような日高地域の中で、新ひだか町は2006年に静内町しずないちょう三石町みついしちょうが合併して誕生した町である。1965年資料によれば、旧静内町に240世帯1915人、旧三石町に85世帯411人のアイヌがいたとされる。

この町のアイヌスポットと言えば、新ひだか町静内真歌まうたにある新ひだか町アイヌ民族資料館と、シャクシャイン記念館だ。千歳からは車で約2時間かかり、あまり交通の便がよいとは言えず、行こうという考えがなければ、なかなか行かない場所だろう。

アイヌ民俗資料館は、静内川の河口近くの高台にある。海が近いためか、駐車場にハマナスの実がたわわに実っているのが印象的だった。気候が適しているためか、北海道の太平洋側の海岸沿いにはハマナスが非常に多い。

筆者が訪れたのは夏休み最後の休日であったが、閑散としていた。入館料は無料なのだが、他に見学者がいる様子はない。入口付近では、昔行われたイヨマンテの様子と解説のビデオが流れている。

資料館の展示物で目についたのは、アイヌの持ち物であったという、三つともえの紋が付いた漆器、刀剣、数珠じゅず、そしてアイヌ文様の着物だ。このうち漆器、刀剣は室町時代以降に本州との交易でアイヌが手に入れた解説されている。着物についても、華やかなものは明治時代に綿織物が比較的容易に入手できるようになってから作られるようになったと解説されている。アイヌには製鉄や漆塗りの技術がない。また、北海道では木綿は栽培できない。従って、こういった物は交易で入手するしかないし、アイヌにとっては貴重な宝物であったという。

とすると、当然こんな疑問が湧いてくる。アイヌの文化と言っても、かなりの部分で和人に依存していたのではないか。そして、その歴史はそれほど長くないのではないかと。

見学者が他にいないということもあって、資料館の職員の方が、丁寧に説明してくれた。そこで、特に気になったことを聞いてみた。

「アイヌ紋様の着物は、明治時代になって作られたものなのですか?」

「綿生地を使ったパッチワークで作られるようになったのは、明治になってからのことです。それより前は刺繍ししゅうで、首元かそでの部分を装飾していました」

おそらく我々の多くがアイヌからイメージする、観光パンフレット等に載っている華やかな衣装の歴史は比較的浅く、しかも和人が提供する材料に依存していたのである。ただ、アイヌ紋様自体は確かにアイヌの文化であり、少なくとも1700年の歴史があるという。

「この刀はアイヌが作ったものではないのですか?」

「いえ、みんな本州との交易です。ただ、ツバとさやだけはアイヌが作っていました。それから、模様をアイヌが掘り入れることもありました」

「それにしても本土ではあまりないような、独特のデザインの刀ですね」

「アイヌが松前藩の鍛冶屋に注文して作らせていましたから」

アイヌについて、「和人が侵略し、独自の文化を奪った」言われることがあるが、少なくともそのような一方的な関係ではなかったようである。アイヌと和人の間には対等な取り引きが成立していたこという。

一方、アイヌ独自のものと言えば「キナ」と呼ばれるガマの葉を材料に作られたむしろ、「チセ」と呼ばれる掘っ建て小屋の住居、「イナウ」と呼ばれる木を削って作った道具である。イナウは、神道の神社でけがれをはらったり、社殿の中に立てたりする御幣ごへいによく似ており、使われ方も同じようなものだ。

アイヌ民俗資料館がある場所は、アイヌの英雄シャクシャインゆかりの地でもある。そのため、資料館の隣にはシャクシャイン像と、シャクシャインをしのぶ記念館がある。

ャクシャイン像の前には我々以外にも、女性3人のグループがおり、手を合わせて何やらお参りのようなことをしていた。

「何か、ご利益があるんですか?」と聞いてみると、「知りません」と返されてしまった。

シャクシャイン記念館もやっぱり閑散としていた。コカ・コーラの自動販売機が1台あるが「販売を中止しています」との張り紙がされている。

記念館の職員に聞いてみると、やはり来訪客はあまり多くないという。交通の便の問題があって、白老のような千歳空港に近い観光地にはどうしても負けてしまうのだそうだ。それでも、シャクシャイン法要祭がある時には遠くから多くの人が訪れるという。

ついでに、新ひだか町のアイヌ事情を聞いてみた。

「この場所にもアイヌの集落があったんですか?」

「あったのは本当に昔の話で、今はいろんなところに散らばっています」

やはり、この地でもアイヌ部落と呼べるような場所は残っていないようだ。しかし、新ひだか町には多数の生活館がある。これらの全てがアイヌとのゆかりのあるものであれば、1つくらい痕跡でも残っていそうなものだ。そこで、その点を聞いてみた。

「生活館はいっぱいありますよ、ここからだと真歌の生活館が近いです。ただ、生活館と言っても公民館ですよ。確かに昔アイヌ部落があった場所に生活館を作ったみたいですが、部落といっても当時でもアイヌの家が数軒ある程度だったみたいです。アイヌは街を作らなかったですから」

確かに1965年資料にもそのような記述がある。アイヌの部落は狭い範囲の血族で構成され、5ないし7戸が普通であり、20戸を超える部落は稀であったと記されている。

それでは、ある人がアイヌの末裔かどうか、どうすれば分かるのか聞くと、

「はっきり分かるかというとそうではないですね。昔は戸籍で分かりましたが、今はそういう戸籍は見られなくなっています。ただ、アイヌ協会はありますよ」

という答えだった。

新ひだか町内には、旧静内町内に20箇所、旧三石町内に14箇所、合計34箇所の生活館がある。最初の生活館は昭和37年に旧静内町に設置され、またこれは新ひだか町だけでなく全道に言えることだが、昭和40年代に生活館建設ラッシュのピークを迎えた。

1965年資料と現在の生活館の状況を比較すると、不可解な点がある。1965年当時にアイヌ部落とされた地区は旧静内町に18箇所、旧三石町に9箇所であり、生活館の数よりもずっと少ない。

そこで、どのような経緯で生活館が作られたのか、管理する新ひだか町福祉課に聞いたところ、このような答えだった。

「生活館は、例えば何々町といった行政区画単位で、アイヌの方が何世帯か住んでいたところに作られました」

つまり、生活館の設置場所は、あくまで建設当時その行政区画にアイヌの世帯があったということで、古くからのアイヌ部落があったというわけではないのである。

そして、現在の生活館が、単なる公民館や自治会館と変わらないということは事実である。

ある意味、アイヌにかこつけて国の予算で公民館を作ったようなもので、いい加減な話だ。

「アイヌの文化伝承のような行事も行っているのですが、なかなかやり手がいないですね。これはとてもデリケートな問題ですが、確かに昔は誰がアイヌかということを判断できるような公文書等がありました。しかし、少なくとも今は誰がアイヌかといったことを役場が把握することはできません。ですから、今現在生活館の周辺にアイヌの方が住んでおられるかということは、判断ができないです」

なお、個人給付的な施策については、アイヌ協会が認定を行い、ここでも役場が直接誰がアイヌか判断することはないのだという。

また、生活館の中には実際は使われていないものがいくつかある。旧静内町内では2箇所、旧三石町内では3箇所が閉鎖された状態になっている。

筆者は、新ひだか町内の生活館の一部を訪ねてみた。

1つ目は海岸町生活館だ。文字通り、この生活館は太平洋を見渡す海岸のほど近くにある。建物はそれほど大きくなく、同和対策施設で言えば、隣保館というより集会所や地区会館レベルの大きさである。訪れたのが休日であったためか建物は閉まっており、人の気配はなかったが、掃除はされており、利用されているような形跡はあった。ただし、入り口には「地域災害避難所」という掲示があるだけで、アイヌを思わせるものはなかった。

続いて訪れたのが御園みその生活館である。これは海岸生活館よりもやや大きく、札幌の時計台を思わせる北海道らしいデザインだ。ここにもアイヌを思わせるものは全くなく、単なる公民館であった。周辺には生活館の場所を指し示す案内板があり、周辺住民の行事等によく使われていることがうかがえた。

(次回に続く)


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