小諸市と言えば、思い浮かぶのが島崎藤村の千曲川旅情の歌。「小諸なる古城のほとり 雲白く遊子悲しむ 緑なすはこべは萌えず 若草も籍くによしなし…」というフレーズだろう。そして、島崎藤村と部落と言えば、小説「破戒」だ。
ここ小諸市加増は「破戒」の舞台となった部落である。貴重な歴史資料と共に、この部落を探訪してみよう。
1933年の調査によれば、世帯数と人口はそれぞれ120世帯、661人とされる。
小説「破戒」には、主人公丑松の出自について次のように記述されている。
そもゝは小諸の向町(穢多町)の生れ。北佐久の高原に散布する新平民の種族の中でも、殊に四十戸ばかりの一族いちまきの『お頭』と言はれる家柄であつた。
この「向町」こそが加増の部落のことである。
まず、最初に目についたのが「惟善学校跡」と書かれた案内板だ。その名前の響きから、もしかするとと思って行ってみると、やはり思った通りであった。
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この地では明治13年から部落改善事業が始まっていた。その記念碑とも呼べるものがこうやって今に残されている。この地に被差別部落があって、「荒堀」という名前であることがこれで分かる。
ここは2011年に小諸市によって作られた「惟善学校跡地記念広場」であり、解放新聞でもその除幕式が報じられていた。
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広場には立派な白山神社があった。また、広場は地元住民にとって駐車場でもあるようだ。
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「荒堀老人憩の家」という施設がある。この部落は近世までは「向町」と呼ばれており、その後は「荒堀」という名前が定着したようである。
ところで、「破戒」には次のような会話がある。
『未だ校長先生には御話しませんでしたが、小諸の与良といふ町には私の叔父が住んで居ます。其町はづれに蛇堀川といふ沙河が有まして、橋を渡ると向町になる――そこが所謂穢多町です。叔父の話によりますと、彼処は全町同じ苗字を名乗つて居るといふことでしたツけ。其苗字が、確か瀬川でしたツけ。』
『成程ねえ。』
『今でも向町の手合は苗字を呼びません。普通に新平民といへば名前を呼捨です。おそらく明治になる前は、苗字なぞは無かつたのでせう。それで、戸籍を作るといふ時になつて、一村挙つて瀬川と成つたんぢや有るまいかと思ふんです。』
『一寸待ちたまへ。瀬川君は小諸の人ぢや無いでせう。小県の根津の人でせう。』
『それが宛になりやしません――兎に角、瀬川とか高橋とかいふ苗字が彼の仲間に多いといふことは叔父から聞きました。』
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このフェンスの下がその蛇堀川である。この川が「部落」「一般」を分けるものであったようだ。
なお、会話にあった「瀬川」という苗字は、この地では見られない。むしろ「高橋」が圧倒的に多く、それだけでなく、なぜか長野県の部落には高橋姓が集中しており、長野県では知る人ぞ知ることのようである。
無論、高橋姓が多い場所が全て部落というわけではないのだが、特に小諸・佐久地域では高橋姓が目立つ。
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実は、幸福の科学の大川隆法総裁にも多大な影響を与えたとされる、GLA教団の創始者、高橋信次の出身地である、佐久市瀬戸西耕地にも行ってみたのだが、その地にある白山神社の寄贈者の姓は全て高橋であった。
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亀井文夫のドキュメンタリー、「人間みな兄弟」には1960年頃の加増の映像が出てくる。農村の貧しい部落として描写されている。
なお、「人間みな兄弟」のDVDを買いたい方は、日本ドキュメントフィルムに問い合わせるとよいだろう。
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それから50年、昔のような茅葺きの家はさすがに残っていないが、この部落には廃墟と空き地が目立つ。
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廃墟の1つには、離れの便所が残されていた。
(次回に続く)