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Channel: 宮部 龍彦 - 示現舎
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川崎市同和相談事業の謎(1)「海苔弁当」の公開文書

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昨今は、国会では森友学園・加計学園問題、東京都では築地市場の豊洲への移転問題が取り沙汰されている。このような政治や行政にからむ問題がある度に、メディアが行う取材方法の1つに、「情報公開請求」という手続きがある。

テレビや新聞が行政文書を手に入れる時、取材対象者から直接入手したり、内部告発のような形で一方的に送られてくることも多いが、情報公開請求によって正面から手に入れようとすることも多い。その結果、公開された文書が報道に利用されることもあるし、「公開されなかったこと」自体がニュースになることもある。例えば、福島第一原発の事故に対応した原子力災害対策本部の議事録をNHKが情報公開請求したところ、文書が不存在という理由で公開されなかったため、議事録自体を作成していなかったことが明るみになって問題になった。

情報公開制度とは

情報公開制度は1980年代に各地の市町村や都道府県が始めたもので、自治体が保有する情報は住民の共通の財産であるという考え方から、住民がその情報の公開を求める手続きが条例で定められた。1999年には情報公開法が制定され、国が保有する情報も情報公開制度の対象となってからはさらに広がり、現在は全ての都道府県と、ほとんどの市町村に情報公開制度がある。

情報公開制度が作られる以前は、行政が保有する文書を公開するかどうかは、住民票や登記簿のように開示の手続きが法律で定められているようなものを除けば、役人の胸先三寸次第というところがあった。また、事実上は記者クラブが行政の情報を独占しているような状況があった。しかし、情報公開制度が出来ると、誰でも定められた手続きを行えば行政情報の公開を求めることが出来、しかも法律の定めがあり、訴訟の対象にもなるので行政に対する強制力を持つようになった。

これはメディアにとっては痛し痒しなところがあって、自分たちが情報を独占できなくなる反面、法律によって非公開にすることが認められていない情報であれば、役人の意志がどうであれ、強制的に公開させることができるようになった。

情報公開制度が広まっていった1990年代と概ね2000年代前半は、情報公開訴訟があれば裁判所が請求者の権利を最大限尊重することが多く、そのような判例が積み重なるにつれ、情報公開制度は非常に強力なものになった。ダメ元で情報公開請求してみたら、驚くような文書が公開されるということもあった。

しかし、2005年に個人情報保護法が施行されると、世の中は情報公開から個人情報保護、秘密保持へと振れ始め、それに伴って情報公開の流れは停滞または後退しているのが現状である。

森友学園や築地市場の問題にしても、情報公開請求してみたら、出てきた文書はあちこちが黒塗りにして隠されており、そのような文書は見た目から一部の政治家やメディアからは「海苔のり弁当」と評された。

川崎市人権・同和対策生活相談事業補助金

さて、そのような情報公開請求の対象として示現舎が注目したのは、示現舎のお膝元である神奈川県川崎市の「川崎市人権・同和対策生活相談事業補助金」という制度である。これは「同和対策事業の対象者で構成する団体が行う人権・同和対策生活相談事業を行うために必要な経費の一部に対し、補助金を交付する」ものだという。

しかし、賢明な読者であればこの時点で不審であることに気づくだろう。そもそも、川崎市に同和地区ってあったっけ? ということである。

神奈川県の同和行政は「5市3町」と言って、横須賀市、小田原市、秦野市、伊勢原市、秦野市、大磯町、湯河原町、山北町に限られている。それ以外の地区にも、いわゆる「部落」はあるのだが、同和地区として行政に指定されておらず、同和対策事業の対象になっていない。それでは、「川崎市人権・同和対策生活相談事業」は一体誰を対象としているのか、ということは興味深いことだ。

そこで、以下の「公文書開示請求書」を川崎市役所に送ってみた。「一切の文書」となっているが、行政文書の保存期間は多くの場合5年間なので、これで過去5年分の文書が出てくるはずだ。

情報公開請求は、簡便な手続きでできることが多い。窓口だけでなく郵送やファックス、さらにはメールやウェブフォームで受け付けている自治体もある。これは情報公開請求をどう処理するかについて、原則として誰が請求したのかということを問題にしないという建前があるので、厳密な本人確認が必要ないからである。ただし、自治体によっては請求できるのは住民に限られていたり、手数料が必要なこともあるので、その場合は少しだけ手続きが煩雑になる。

川崎市は、さすが全国でも情報公開制度の先駆けとなった神奈川県の自治体だけあって、住民でなくても請求可能で、手数料も不要である。ただし、公開された文書をコピーしたものが必要な場合は、1ページ10円のコピー代は必要だ。

まさに「海苔弁」の文書

さて、しばらくすると次の通知書から川崎市から届いた。

「開示することができない部分が一部あります」ということである。情報公開制度においては、全ての情報を公開することが原則なのだが、公開できない情報の類型を例外として定められている。今回の場合は条例に定められた「当該団体の正当な利益を害するおそれがある」情報が含まれることが、一部を開示しない理由だという。それにしても、開示しない部分が多いようなので、嫌な予感がした。

そして、出てきた文書がこのようなものである。これは全日本同和会神奈川県連合会川崎支部の予算書なのだが、市の補助金の額以外は全て黒塗りである。その団体の予算規模が分かってしまうと支障があるということなのかも知れないが、それにしても、補助金の使い道である生活相談に関係する支出くらいは公開してもよさそうなものだが…

こちらは、神奈川県地域人権運動連合会川崎支部の事業実施計画書。これも、生活相談活動以外の事は全く分からない。

相談員の名前や連絡先はもちろん、支部の代表者も黒塗りである。連絡先が公開できないなら、どうやって相談すればよいのだろうか。もはや秘密結社のような扱いである。

部落解放同盟神奈川県連合会川崎支部の規約は全体が真っ黒で、まさに海苔弁当だ。ここまで来ると意味が分からない。補助金を受けているのは解放同盟、同和会、人権連の支部ということは分かったが、3団体とも揃ってこのような扱いだ。

さすがに、ここまで黒塗りにするのはやり過ぎではないかと市の担当者に聞いてみるも、神妙な面持ちで「当該団体の正当な利益を害するおそれがあるとの説明の通りです」と繰り返すばかり。

このような場合、「審査請求」と言って文書を管理する部署とは独立した委員会に審査してもらうように申し立てるか、あるいは裁判所に訴訟することができる。それらを行えば、一度非公開とされた文書が公開とされることは珍しいことでないので、普通ならやってみる価値がある。

しかし、示現舎は様々な経緯で、同和が関係する情報公開については行政にも裁判所にもあまり期待できないことを痛感しているところである。幸い、このような場合は、多くのメディアも行っている第3の道がある。

そこで、示現舎はその「アレ」を実行することにした。

(次回に続く)


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